オーダースーツというと、生地やボタンに目が行きがちですが、仕立てに欠かせない「糸」にも、それぞれ役割があります。
一着のスーツには何千針もの縫い目があり、その一本一本が着心地や耐久性、美しいシルエットを支えています。
その中でも、昔からビスポークの世界で使われてきたのが絹糸(シルク糸)です。

では、なぜ絹糸が選ばれてきたのでしょうか。
絹糸は生地との相性が良い
スーツに多く使われるウールは天然素材です。
絹も同じ天然素材であるため、生地の動きや伸縮に自然になじみやすいという特徴があります。
それ以外にも、修行中の職人さんに聞いた時はウールの表地よりは強度が弱い為、生地が破ける前に糸がほつれる為、生地を痛めにくいという事もお聞きした事がありました。エビデンスなどは無く、感覚的に話ではあるのですが。。。。
着用時に生地がわずかに動いても、糸がその動きに追従しやすく、縫い目が生地の風合いを損ないにくいことから、伝統的な仕立てで長く使われてきました。
天然シルクの適度な強度としなやかさが、美しい仕上がりを生む
絹糸は細くても高い強度を持ちながら、しなやかさも兼ね備えています。
また、繊維が細く滑らかなため、生地への負担を抑えながら縫製できる点も魅力です。
絹糸には独特の自然な光沢があります。
そのため、襟の穴かがりや手縫いのステッチ、閂止めなど、見える部分では上品な存在感を演出してくれます。


一方で主張しすぎる光沢ではないため、程よく調和してくれます。
絹糸と綿糸との違い
綿糸も天然素材であり、生地との相性は良好です。
しかし、、強度の面では絹糸に及ばないため、同じ強度を得るにはより太い糸が必要になる場合があります。
ドロアーでは、細い綿糸の糸を使用して裏地をしつけで止める時などに使用しています。
もちろん、綿糸にもナチュラルな風合いという魅力があり、用途に応じて使い分けられています。
絹糸とポリエステル糸との違い
現在の既製服では、ポリエステル糸が多く使われています。
非常に強度が高く、摩耗にも強いため、大量生産や日常使いには優れた素材です。
一方で、天然素材のウールとは性質が異なるため、伝統的なビスポークでは、仕立てや用途によって絹糸を選ぶ職人もいます。
つまり、どちらが優れているということではなく、
「丈夫さや効率を重視するならポリエステル糸」
「天然素材同士の相性や、手縫いの仕立てを重視するなら絹糸」
という考え方もあるのかなと思います。
ビスポークの糸とは——
見えない一本にも、仕立ての思想がある
完成したスーツでは、糸が目立つことはほとんどありません。
しかし、その一本一本が着心地や美しいシルエット、そして長く愛用できる一着を支えています。
だからこそ、ビスポークでは生地だけでなく、糸や芯地など、見えない部分にもこだわります。
仕立ての品質とは、目に見える高級感だけではありません。
見えない部分にどれだけ手間をかけ、適した素材を選ぶか。
その積み重ねが、一着のスーツの価値をつくっているのです。
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