私がスーツを仕立てるときに使っている道具の一つに、足踏みミシンがあります。

今の時代、ミシンといえば電動のものが当たり前です。効率を考えれば、新しい機械を使うという選択肢もあります。
それでも、私は足踏みミシンを使い続けています。
理由はいくつかあります。
職人として、昔ながらの道具や技術を受け継いでいきたいという思い。そして、長く使い続けてきたことで、自分の手に馴染んでいるということ。
もう一つ、実際に縫っていて感じるのが、縫い目の柔らかさです。
自分の足でミシンを動かし、手で生地を送りながら縫い進めていく。その感覚が、私にとっては自然で、しっくりきます。
もちろん、足踏みミシンを使えば必ず良いスーツができるわけではありません。大切なのは道具だけではなく、それを使う職人の技術です。
それでも、長く使い続けてきた道具だからこそ感じられることがあります。
今回は、DraweAr.の服づくりを支える足踏みミシンについて、私自身が感じている魅力をお話ししたいと思います。
足踏みミシンとは?手と足を使って服を仕立てる道具
足踏みミシンは、足元のペダルを踏むことで針を動かす、昔ながらのミシンです。
電動モーターで動く現代のミシンとは異なり、自分の足でペダルを踏み、その動きをベルトなどを通じて針の動きに伝えます。
足でペダルを踏みながら、両手で生地を扱い、縫い進めていく。
足と手の動きを連動させる必要があるため、慣れるまでは少し難しく感じるかもしれません。
しかし、使い続けるうちに、自分のリズムでミシンを動かし、生地の状態に合わせて縫い進められるようになります。
ゆっくり慎重に縫いたいところでは速度を落とし、安定したリズムで縫えるところでは一定のテンポを保つ。
機械に任せきりにするのではなく、自分の身体を使って機械を動かしている。そんな感覚が、足踏みミシンの魅力の一つです。
なぜ今も足踏みミシンを使うのか
私が足踏みミシンを使い続けている理由は、昔ながらの道具や技術を職人として受け継いでいきたいからです。
服づくりの技術は、知識を覚えれば身につくというものではありません。
実際に生地を扱い、何度も縫い、経験を積み重ねることで、少しずつ自分のものになっていきます。
道具も同じです。
使い続けるうちに、その道具の特徴や動きが分かってくる。自分がどう動けば思いどおりに縫えるのかも、少しずつ分かってきます。
足踏みミシンは、今の時代に最も効率の良い道具とはかけ離れているものだと思います。
それでも、使い慣れた道具で、自分の感覚を頼りに仕事ができることには、大きな意味があると感じています。
新しい技術を取り入れることも大切です。しかし、これまで受け継がれてきた技術を、自分の手で次につないでいくことも、職人として大切にしたいことの一つです。
足踏みミシンで縫うと、縫い目が柔らかくなる感覚がある
私が足踏みミシンを使っていて感じる魅力の一つが、縫い目の柔らかさです。
もちろん、足踏みミシンを使えば必ず柔らかい縫い目になる、というわけではありません。縫い目の仕上がりは、生地や糸の種類、糸調子、縫う速度、縫製技術など、さまざまな条件によって変わります。
それでも、実際に使っていると、自分の足で速度を調整しながら、手で生地の動きを感じて縫い進めることができます。
その感覚が、自分の考える柔らかな仕上がりにつながっているように感じます。
スーツは、生地をただ縫い合わせれば完成するものではありません。
どのように縫い合わせるかによって、生地の表情や服全体の仕上がりも変わってきます。
職人の仕事は、完成したスーツを見ただけでは分からない部分にもあります。
ミシンの動かし方や糸の扱い方、アイロンの使い方。そうした細かな工程を積み重ねることで、一着のスーツが形になっていきます。
私にとって足踏みミシンは、単に生地を縫い合わせるための道具ではありません。
自分の感覚を仕事に反映させるための、身体に馴染んだ道具なのです。
修理しながら、長く使い続けられる道具
足踏みミシンの魅力は、縫い心地だけではありません。
昔ながらの足踏みミシンは、機械としての構造が比較的シンプルで、仕組みを理解しやすいことも特徴です。

もちろん、故障したときにすべて自分で直せるわけではありません。部品の摩耗や破損があれば、専門的な修理が必要になることもあります。
それでも、適切な手入れや調整をしながら、長く使い続けられることは、昔ながらの道具ならではの魅力です。
道具というものは、壊れたらすぐに新しいものへ買い替えるだけではなく、直しながら長く付き合っていくことにも価値があると思っています。
それは、私たちが仕立てるスーツにも通じる考え方です。
大切に着てきたスーツも、擦れたり、ほつれたり、体型が変わったりすることがあります。そんなとき、すぐに手放すのではなく、修理やお直しをしながら着続けることができます。
道具も服も、手をかけながら使い続けることで、自分にとって特別な存在になっていく。
足踏みミシンを使い続けることは、昔ながらの技術を受け継ぐだけでなく、「良いものを直しながら、長く大切に使う」という、私たちのものづくりの考え方にもつながっています。
古い道具を使うことより、技術を受け継ぐこと
昔ながらの道具を使っていると、伝統や職人技といった言葉で紹介されることがあります。
もちろん、長く受け継がれてきた道具には魅力があります。
けれど、私が大切にしたいのは、古い道具を使っているという事実だけではありません。
その道具を使って、何ができるのか。
どんな技術を身につけ、どんな服をつくれるのか。
そこにこそ、職人としての意味があると思っています。
昔の道具だから無条件に優れているわけではありませんし、新しい機械だから職人の技術が必要ないというわけでもありません。
大切なのは、それぞれの道具の特徴を理解し、目的に合わせて使いこなすことです。
足踏みミシンを使い続けることも、私にとっては仕立ての技術を学び、磨き、受け継いでいくための一つの選択です。
そして、今自分が身につけている技術を、これからの服づくりにつなげていきたいと考えています。
一着のスーツは、目に見えない仕事の積み重ねでできている
オーダースーツを選ぶとき、お客様が最初に目にするのは、生地や色柄、デザインかもしれません。
どんな生地にするか。どんなシルエットにするか。ボタンや裏地をどう選ぶか。
こうした選択は、オーダーメイドならではの楽しさです。
しかし、完成した一着の裏側には、型紙づくりや裁断、縫製、アイロンワーク、仮縫いなど、さまざまな工程があります。
その一つひとつが積み重なって、初めてスーツが完成します。
足踏みミシンも、その工程を支える道具の一つです。
お客様からすれば、ミシンが足踏みなのか電動なのかは、完成したスーツを見るだけでは分からないかもしれません。
それでも、私たちがどんな道具を使い、どのように服をつくっているのか。その背景を知ることで、一着のスーツを少し違った視点から楽しんでいただけたらうれしく思います。
私たちが目指しているのは、単に服をつくることではありません。
お客様がそのスーツを着て自信を持って人前に立ち、長く大切に着続けていただけることです。
そのために、道具を使いこなし、技術を磨き、一着ずつ向き合っていきます。
足踏みミシンのある仕立て屋、DraweAr.
便利なものが次々と生まれる時代だからこそ、昔からある道具を使い続けることには、改めて考える価値があると思います。
ただ古いものを残すのではなく、その道具で何ができるのかを考え、自分の技術で活かしていく。
足踏みミシンを使うことは、私にとってそんな服づくりの姿勢にもつながっています。
長く使ってきたからこそ手に馴染む道具があり、その道具を通して感じられることがあります。
そして、これまで受け継がれてきた技術を、自分なりに磨きながら次につないでいく。
それもまた、仕立て屋という仕事の魅力ではないでしょうか。
DraweAr.では、生地選びから採寸、仮縫い、縫製まで、一着のスーツに丁寧に向き合っています。
足踏みミシンも、そんな服づくりを支える大切な相棒です。
昔ながらの道具を使いながら、今の時代に、自分たちが本当にかっこいいと思える服を仕立てる。
それが、DraweAr.の目指す服づくりです。
オーダースーツに興味をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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